この絵の存在を初めて知ったのは15年ほど前だろうか。 当時はグリューネヴァルトという画家の名すら知らなかった。
ある文庫の口絵に載っていたモノクロの印刷。それでも、私はこの絵に大きな衝撃を受けた。
十字架に架けられたキリストの圧倒的な存在感。しかしその頭部は対照的に醜いほどに矮小化されている。しかし、その表情はあきらめきった静けさがある。
キリストの磔刑を描いた絵はそれまでも数多く目にしてきたが、胸をえぐるような磔刑画は初めてだった。
その後、図書館でカラー版の印刷を見つけ、呆然と見入ってしまった。
1500年に描かれたこの作品は、今から500年以上も前のものだということ自体が驚異だが、 それ以上に、キリストが十字架上で処刑されてから、1500年も経っているというのに、 あまりに生々しくリアルさをもって描いてしまうことが不思議でならない。
グリューネヴァルトがどれほどの信仰心を持ってこの絵に取り組んだかは知る由もない。
しかし、時を超えた信仰の力がそこに働いていなかったといえば嘘になるだろう。
私は、キリスト教徒ではないが、その信仰の力の持続、継続、普遍に感動を覚える。
私たちはここから、学ばなければならないことがあまりに多くある、と思う。
信仰のあるなしにかかわらず。
この絵は、フランス北東部アルザス地方のコルマールにあるウンターリンデン美術館に所蔵されている。パリから鉄道で4時間の道のりの田舎町だ。
いつか必ず行って本物と向き合ってみたい、と思う絵だ。
「イーゼンハイムの祭壇画」(ARCより) http://www.artrenewal.org/asp/database/image.asp?id=2518