芸術

俳優、中村伸郎について

先日、職場の同期から、小津安二郎に関する新書をぽっと渡され、何気なく、開いていたページを眺めてみた。

「な、似てるだろう?」

一瞬、何のことかわからなかった。、しかし開かれたページの写真を見て、その意味するところを理解した。

小津作品のワンカットの写真に、中村伸郎が写り込んでいたのだ。

同期は、以前から、「お前は中村伸郎に似ている。そっくりだ。激似だ」と散々私に言っていた。

私は映画好きという割には、これまで小津安二郎作品とは縁がなく、従って、小津作品の数々で用いられてきた中村伸郎の存在も知らずにいた。

これも最近知ったのだが、リメイクされ話題となった「白い巨搭」のテレビドラマ昭和53年版で中村伸郎が出演していた。残念ながら私はこの「白い巨搭」も見たことがなかった。今回、再放送がされたらしいのだが、それも見逃していた。

従って、同じ小津作品の常連である佐分利信には心酔の域に達する思いを抱いていても、中村伸郎は私にとって遠い存在となってきていた。

その中村の写真を見て思った。

似ている……

世の中には3人、自分と似ている人がいるといわれる。その3人の中に十分加えていい似方をしていると思った。

こんなに自分に似ている人の作品をこれまで見逃してきたなんて……。自分の中で、何かすごく損をしてきた時間の流れのようなものを感じすらした。

この人が実際、役というものを得て、どのような動作、物言い、目つきをするのか、ぜひ知りたいと思った。

中村について、ネットで情報を検索しているうちに、このような文章に出会った。

中村の葬儀に弔問した際のマルセ太郎のエッセーである。

部屋に上がると、白い花で飾られてあったが、お坊さんもお経もない。線香もなし。故人の遺体は棺(ひつぎ)に入っておらず、低いベッドに、うすいふとんを掛けて仰向けに寝かされており、あたかも病人が眠っているごとくであった。枕元に煙草と灰皿がおいてあり、弔問者は正座して拝み、お別れの煙草を喫うのである。多分、生前病院で喫煙を禁じられていた故人に代わって、喫ってあげるということなのだろう。だから弔問者もあっさり一服というわけにはいかない。三服は喫わないと形にならない。それも十分、間をおいて。したがって弔間客の列の歩みはゆっくりしたものになる。

遺体の枕元で生前、自分が好きだったタバコを吸ってもらう――。なんとも不思議な光景だ。しかし、私には、わかる気がする。

抹香臭い線香なんかで送ってくれるな。俺はこのタバコの香りが好きなんだ。

とってもわかる気がする。顔が似ると、考えまで似るようになるものなのだろうか。

小津作品に没頭する日々が、しばらくの間、続きそうだ。

日時: 2004年09月16日 15:15 | パーマリンク