ドラマ「半沢直樹」が絶好調だ。
私も初回から見ている(3話は都合で見逃してしまったが……)。
最近のドラマで、ここまで話題になったものはないだろう。
ということで、私も感じるところを少々述べてみたい。
半沢の魅力について、最も多く挙げられている要素は、やはり「倍返し」の言葉に象徴される、理不尽に対する復讐劇にあろう。
道理の通らない理不尽は、この世の中にあまりに多いにもかかわらず、その理不尽に何ら抵抗もできず、歯噛みして悔しい思いをしている人は五万といるはず。
そんな悶々と怒りのエネルギーを腹に抱えた五万の人々の前に鮮やかに登場した、半沢の倍返し。
これが痛快と思わずにいられようか。
自分には決して半沢と同じ行為はできないが、自分に成り代わり、仮想の敵をスカッとやっつけてくれるのだから、それは爽快極まるはず。
その感覚は私にもよく理解できる。
ただ、このドラマの魅力はここにとどまらない。
むしろ私にとっては、倍返し以上の感銘を受ける要素がある。
それは倍返しの前に登場するフレーズだ。
記憶なので、セリフは不正確だが、「人の善意は信じるが」の言葉。
この言葉がずっしりとベースに置かれているがゆえに、このドラマを単なる皮相的な復讐劇に終わらせていない。
その象徴的なシーンは1話で表現されていた。
資金繰りに逼迫したとある中小企業に足を運んだ半沢が、その会社内を見て回る際、半沢を迎えた社員たちは「こんにちは」と頭を下げていた。
これに半沢は厳しい表情で口元を引き締め、あいさつを返さない。
この時点では、半沢は何と傲慢な人間かという印象を与える。
しかし、半沢は最終的にこの会社への融資を承諾するに至る。
社員があいさつする姿勢に、この会社に満たされた人間性の善意を半沢が感じとり、それが信頼の裏付けになったであろうことは想像に硬くない。
一方、その対照として、西大阪スチール社員の不真面目でだらけた態度が描かれていた。
この会社には善意のかけらもないことを象徴している。
半沢はこうした人間性の善意をくみ取ることができる心根を持つゆえ、その善意を踏みにじろうとする傲慢や理不尽を決して許さない。
ここが半沢直樹の凄さであり、素晴らしさなのだ。
「倍返し」の爽快さゆえか、復讐面ばかりがクローズアップされ、半沢を安易に真似て問題を起こす事例が後を絶たないとの話も聞くが、それは前半のフレーズの「人の善意」というものを全く理解しないゆえの浅慮というほかない。
その意味で、せっかくの優良なドラマが、短絡的な解釈によって、さらなる理不尽を世の中にもたらされることを私は憂慮する。
繰り返すが、このドラマの最大のテーマは「人の善意を信じる」にある。
以上が私のこのドラマに対する解釈だ。