人間観察

通勤途上で見かける印象深い人々(17)極寒の季節の電車の窓を全開にする男性

久しぶりのシリーズ、電車に乗れば、向こうから提供してくれる人々が多くいるので。

その一、職場へ向かう電車内はガラガラというくらい空いていた。

千駄ヶ谷駅を過ぎて、優先席に座っていたやや年配の女性が立ち上がると思うと、いきなりくるりと窓側に向き直った。

私は「あ、乗り過ごしちゃったのかな、気の毒に」と眺めていた。

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女性の姿勢は1分ほど経っても変わらず、窓の外の遠くを何か探すように見つめている。

私も同じ方向に視線をやっていると、「ああ、これか」と思わず心の中で叫んでしまった。

建設中の国立競技場がそれ。

競技場が見えなくなった途端に女性は元のように座り直したところを見ると、間違いないだろう、おそらく。

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その二、やや混雑した朝の通勤電車に、修道服を着た女性3人が乗り込んで、私の隣(優先席前)で立っていた。

3人とも年配で、頭を覆うベールの下には白髪が見受けられた。

そして全員、大きめのスーツケースを手にしている。

どこかで集会でもあるのだろうか。

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私の前に座っていた男性が無言のまま立ち上がり、無言のまま降りていったので、私は修道服の女性に、「どうぞ」と声をかけた。

すると、最も年配と思しき女性が席に着いた。

やはり無言だった。

お疲れだったように見受けられる。

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その三、帰りの電車のこと、優先席に座った男性がおもむろに立ち上がり、窓を全開にした。

冬場という季節だから、冷たい風がひゅうひゅうと吹き込む。

幸い、私は直撃する場には立っていなかったので、被害は免れることはできたが、なぜ男性はこの季節に窓を全開に?

さらに驚くべきことがあった。

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寒風が直撃する位置に立っていた女性は、迷惑そうなそぶりは皆無で、観光ガイドらしい本を広げて、かなり大きな声をあげて朗読していた。

窓から聞こえる外の騒音にかき消されそうにはなるものの、私の耳にしっかりと本の内容は伝わってきた。

スペインのサグラダファミリアに関することのようだった。

なかなかお目にかかることができない不思議な車内の光景だったように思う。

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<きょうの一枚>

バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全集)
演奏:潮田益子

これも残念ながら廃盤になってしまっている。潮田益子は日本のヴァイオリン界の草分け的存在ということは知っていたが、なかなか聴く機会がなかった。それがたまたま入手したこのアルバムを聴いて、仰天した。す、すごい。1曲目から、鬼気迫るともいうべき演奏。「日本にこんなすさまじい演奏をする音楽家がいたんだ」と強烈なインパクトを与えてくれた。2013年に白血病で亡くなった時はまだ聴く前だったが、聴いた後は、一度でもいいから生の演奏を聴きたかったと思うようになった。