おもひでぽろぽろ

遊び場にしていた大邸宅はあのお札の方のものだった【大井町三丁目のおもひでぽろぽろ13】

あずま荘の近くには私たちやんちゃ坊主には打ってつけの遊び場があった。
 
それは由緒ありそうな立派なお屋敷で、映画「シャイニング」の舞台となったあのホテルを彷彿とさせるまさに大邸宅だった。
 
私と仲のいい友達は、このお屋敷に忍び込んでは、このいけない冒険を楽しんだものだった。
 
そのころはこのお屋敷の持ち主がだれかも、もちろんわかっていなかった。
 
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道路と敷地を隔てる塀は高さ2メートルほどはあっただろうか。
 
小学校に上がる前の幼児がどうやって高い塀を乗り越えることができたのかは今もって不明だ。
 
忍者になりきって、お屋敷に忍び込むスリルが楽しくて仕方がなかったのだろう。
 
実際、苦労して越えた塀の向こうにはワンダーランドが広がっていた。
 
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お屋敷の前には鬱蒼とした森に近い林があり、さまざまなタイプの広葉樹が林立していた。
 
特に私たちのお目当ては虫取りだ。
 
カブトムシやクワガタなどの垂涎の昆虫たちが、それこそゴロゴロいた。
 
おかげで昆虫採取には困ったことは一度もなかった。
 
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ただ、やりたい放題できていたわけでもない。
 
侵入者を見つけた管理者が、怒鳴り声を上げて追ってくる。
 
すると、まさに蜘蛛の子を散らすように子どもたちは逃げ惑う。
 
たまに管理者にロックオンされると、さすがに逃げ切るのは難しい。
 
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そんな時のことだった。
 
慌てて塀をよじ登り、道路に飛び降りた時、足に鈍い痛みが走ったと思うと同時に、真っ赤な血がだらだらと流れ出した。
 
降りた時、持っていた傘で刺してしまったのだった。
 
痛みをこらえ、血を流しながら、泣きながら家に帰った。
 
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この時ばかりは、悪い(違法という言葉はまだ知らなかった)ことをすると、報いが訪れるのだということを学んだ気がする。
 
ちなみに、このお屋敷がだれの所有だったのかということを最近になって知った。
 
かの伊藤博文初代首相の別邸だった。
 
おそれ多くも元とはいえ首相の家に不法侵入していたとは。
 
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別邸は現在は取り壊され、今風のマンションが建っているようだ。
 
大井町に伊藤小学校、伊藤中学校と名付けられた伊藤は、伊藤博文さん由来だったということも改めて知って驚いた。
 
子どもというものはまさに身の程知らずなことをしてしまうものだと今さらながら実感する。
 
そう思うと、いつも追いかけられていた、あの管理者だと思っていた人は伊藤候の末裔だったのかもしれないと思うと、罰当たりな幼少期を送ったものだと反省する。