おもひでぽろぽろ

淡い恋心を抱いた女の子の家は立派な一軒家だった【大井町三丁目のおもひでぽろぽろ30】

自分が初めて恋心というものを抱いたのは一体いつだろう。
 
さかのぼれば既に触れたあずま荘の2階の住人の妙齢な女性がそうか。
 
でも、その時既に30歳を超えていたとあれば、さすが恋愛の対象というより、母性への憧れのような気持ちが私を支配していたと思われる。
 
改めて幼い心の中を紐解いてみると、ぼんやりと見えてきた。
 
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幼稚園の歩き組でいつも同伴していた友達に女性が2人いた。
 
行き帰りとも同じ方角なので、同じグループになったようだ。
 
そのうちの一人の女の子にはどうやら幼い恋心を抱いていたという記憶がある。
 
「帰りの時間に雨が降りそうだから、傘を持っていきなさいよ」との母の言葉を聞くふりをして家を飛び出したことが何度かあった。
 
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好きな女の子の傘に入れてもらって帰るためだった。
 
幼稚園児にしては極めて姑息な戦術をとっていたことを思うと、果たして自分にはそういう才覚が実はあったのではないだろうかと思ったりもするが、その後の私を振り返るに何らパッとしないところをみると、どうやらそうではなかったようだ。
 
女の子は進んで、「一緒に帰ろう」と傘を差し出してくれたことがうれしかった。
 
また、そんな日は「少し寄っていきなよ」と家に招き入れてくれたこともあった。
 
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その子の小ぎれいな部屋もある、立派な一軒家だった。
 
私が住む4畳半との違いに頭がくらくらしたし、家の位置が私の方が遠くてよかったと思ったものだった。
 
さすがに家族がひしめく4畳半に女友達を招くわけにもいかず。
 
この時ばかりは、粗末な家に住んでいることを少し恥ずかしく思ったようだった。
 
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そう思うと、あずま荘に友達を招いたことは7年間で一度もなかったかもしれない。
 
遊び場も学び場も、すべては家の外にあった。
 
というより、家ではしたくても何もできない環境だった。
 
その意味では7歳までという人格形成期において、外に出ることの大切さを学ぶことができたのはありがたいことなのかもしれない。
 
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今の世の中は引きこもり問題が深刻化しつつある。
 
それで自身の体験から妙案を思いついた。
 
子どもが引きこもってしまったら、家族もろとも4畳半とはいわずとも一間の住宅に強制的に引っ越す。
 
そうすれば、子どもも引きこもってはいられないと外へ飛び出していくだろうから。