インド紀行

再会約し巨漢と硬い握手【インド紀行8】

吉岡宅最後の朝。
 
朝食をいただき、荷造りをして、出発の準備完了である。
 
吉岡宅の使用人の皆さんにお礼と別れを告げる。お掃除のお兄さん、なぜかとても寂しげな表情だった。
 
奥様と吉岡さんに丁重にお礼を申し上げる。何もご恩返しができないことが歯がゆいが、この旅を最後まで成功させることが自分のできる唯一の恩返しと心に決めた。
 
では、と吉岡宅を辞そうとすると、吉岡さん、巨漢に何か指示。どうやら、私を駅まで送っていきなさいということらしい。
 
断ることも考えたが、こうなれば甘えついでである。申し訳ございませんと、あっさりお願いしてしまった。
 
再びJeepに乗り込み、吉岡さん、奥様、使用人の皆さんに、手を振って別れを。
 
ありがとうございました。一生、このご恩、忘れません。
 
巨漢と二人きりになった私は、さすがに困った。巨漢は英語を話せるが、何を話せばよいのか。お互い無言のまま気まずい時間が流れた。
 
やっとの思いで、片言の英語で、「スリナガルへはどう行けばいいと思うか」と聞いてみた。
 
彼の意見はこうだった。
 
鉄道でもいいと思うが、バスもいいのではないか。値段も鉄道と変わらないし、何しろ最近はリクライニングができるバスが多くなっている。鉄道だと1等でもそういうわけにはいかないから。
 
デリー―スリナガルは直線距離で600キロ。車中1泊2日の長旅になる。私はあっさりと彼の意見に従うことにした。まずは比較的簡単そうなバスから入ってみようと。
 
コンノート・プレイスのバスターミナル着。巨漢、目で着いたよ、という合図。
 
「サンキュー、ベリーマッチ。シーユーアゲイン」と手を差し出し、硬い握手。
 
巨漢は私に両手を重ね、しばしこれからの旅、いろいろあるだろうが気をつけて行け、途中で便りを必ず寄越せ等々、と励ましてくれた。
 
私は車を降り、走り去るJeepをしばらく見送った。
 
いよいよ、である。
 
さっそくスリナガル行きバスについて案内に聞いてみる。
 
「ありますよ、17時出発です」
 
今はまだ11時。時間はたっぷりあった。チケットを購入し、自分なりのデリー探索をしてみようと思い立った。どこへ行くか。迷った挙げ句、国立博物館を見学することにした。時間を費やすにはもってこいだろう。
 
流しのオートリクシャーを捕まえ、インド門経由で国立博物館を目指すようにお願いした。
 
オートリクシャーとは、オートバイに乗用のほろが付いた乗り物で、今で言うなら、ビザ宅配バイクをやや大型化させたものといえばイメージが沸きやすいだろうか。
 
周囲の乗用車やタクシーに負けず劣らずのスピードと見事なハンドルさばきである。
 
あっという間に壮観なインド門をくぐり抜け、国立博物館に到着した。