インド紀行

バザールで民族衣装を購入【インド紀行29】

深い朝もやがホテルの周囲を包み、まだ夜も完全に明けきらない早朝、計画通り、私を含む4人の男と智美さんは飛行場に向かって歩いていた。

 
智美さんは終始無言である。昨晩の号泣の気恥ずかしさによるものに違いない。それに加え、自分のために男たちが動いていることに対して、どう言葉に表したらいいのか、探しあぐねているという感じも受け取れた。
 
Sさん、智美さんに「寒くないですか? 高地だから寒暖の差が激しいですからね」と話し掛ける。さすがに年の功というべきか、女性へのさりげないアプローチは見事だ。
 
智美さん、「大丈夫です。ありがとうございます」と、Sさんの言葉かけのみならず、私たち全員への感謝の意を尽くそうとしているように聞こえた。
 
30分ほど歩いて、飛行場に到着。既に30人ほどがチケットを求めて並んでいる。倍率は4倍から5倍になりそうなことは明らかだった。
 
出発の1時間前になって、いよいよくじ引きが始まった。結果は……全滅だった。智美さんはきょうも足止めとなってしまった。がっかりした表情だったものの、智美さんの目に涙はなかった。私はほっとした。
 
飛行場を離れた一行は、まっすぐ帰るのももったいないと、バザールに立ち寄ることにした。ここで皆、ばらばらになり、思い思いにお店を見て回った。
 
私はインドに来てからぜひしてみたいと思っていたことがあった。それは民族衣装であるクルターとパージャマーを着てみたいということ。しかし、滞在 の短い町ではそれも難しいのだが、ここレーには、否応なしに長居せざるをえない。いい機会なので、作ってもらうことにした。注文から丸2日でできるとい う。さっそく採寸をしてもらった。色はブルー。青と水色の中間色の色合いがなかなか気に入った。
 
衣装が出来上がったら、それで町歩きをしてみようと思った。そうすれば、よりインドが身近な存在として感じられるはずだ。
 
私がホテルに着くと、アポロンが出迎え、「聞いたよ、せっかくの努力が実らず残念だったな」と慰め言葉をかけてくれた。繰り返すが、このアポロンは本当にいい男である。話す表情もとても絵になるので、ついつい見とれてしまう。
 
しばらく二人の話は弾み、私は写真を撮るなら、どのポイントがいいかなどについてアポロンからアドバイスを受けた。その中で、私がレーの空の青さに感動したことを話すと、彼は「それじゃあ、ウチの屋上でゆっくりと眺めるといいよ」と言う。
 
「屋上? 屋上があるんだ」――私は知らなかった。アポロンに上り口を教えてもらって屋上に上がってみた。屋上はかなり広く、何台かのデッキチェアが置いてある。
 
「これはいいね。ありがとう」とアポロンに例を言い、一度部屋に戻って、タオルとサングラスを取り出し、屋上に戻った。
 
さて、どのデッキチェアにするか、見て回ろうとすると、さきほどは気づかなかったのだが、一つのチェアにだれかが既に横になっている。
 
「だれだろう。女性のようだな」と思いつつ、近寄ってみると、けさ方、レー脱出に失敗した智美さんその人だった。