インド紀行

新調の民族服で街歩き【インド紀行33】

レーの滞在も4日目となる。私は朝食を済ますと、おととい注文した服を受け取りに市場へ向かった。試着こそしなかったが、見た限りにおいては、上出来と感じた。代金を払い、店主に礼を言って、すぐさまホテルに戻った。
 
部屋に入ると、出かける準備をしていたSさんから、「服ができたんですね。着て見せてくださいよ」と声がかかる。
 
私はむろん、そのつもりだったので、さっそく新調の服に袖を通してみた。少々のだぼだぼ感はあるが、それはこの服の特徴。
 
部屋には鏡がないので、私はSさんに「どうです? 似合いますか?」と聞いてみた。
 
Sさん、「なかなかいいんじゃないですか。見ようによっては現地人だな、これは」と言って笑う。
 
私は日本を離れて以来、髭を伸ばしていた。比較的髭の濃い私は、2週間近く剃らずにおくと、ほぼ頬、顎、鼻の下をおおい尽くしてしまう。確かにこの民族服と髭はフィットするかもしれない。
 
やや気をよくした私は、隆介さんや女性たちがくつろいでいるロビーへ、その格好で現れてみた。
 
一同、「おー」という感嘆に続いて、慶子さんが「とてもよくお似合いですよ。一瞬、だれだか分かりませんでした」とおほめの言葉を。いつものように心優しき人である。「うん、いいよ、それで街歩いたら、現地の人に絶対間違われるよ」とOLの晴香さん。智美さんは、相変わらずの無表情で、終始無言だった。
 
「では、さっそく、行ってきます」と私は手ぶらで街に向かった。
 
ここレーでは、ややこの衣装では涼しい。インドの中央ではしのぎやすい生地、作りになっているのだろう。かといって、せっかくの民族衣装の上にスポーツジャケットでは台無しだ。私は寒さを我慢して歩いた。
 
繁華街に入り、少し体を温めたくなった私は、お茶屋でチャイを注文。店先のテーブルで道行く人を眺めながら、熱いチャイを冷ましながらすすった。
 
こうしていると、自分は現地の人に溶け込んで見えるんだろうか――そんなことを考えていると、目の前に突然、大柄なバックパッカーが現れ、私の横の席を指差し、「ここ、空いてます?」と日本語で話し掛けた。
 
「ええ、どうぞ」と私。
 
私が日本人であることは、自明の理だったようだ。
 
バックパッカーの彼は、いかにも旅慣れた空気を漂わせていた。旅が鍛えたたくましさとでもいうのか、そうした自信のようなものでみなぎっていた。
 
「どのくらい、インドを旅されているんですか?」と私。
 
リュックから何かを探しながら、彼は「そうですね、もう数え切れないくらい来てますね。今回は3か月の予定なんですが。おたくは?」と聞き返す。
 
「私は1か月程度です。学生なんで、授業が始まるまでには戻らないといけないんですよ」
 
そう私が答えると、バックパッカーの彼は突然、私の方を振り向き、不敵な笑いを浮かべた。