インド紀行

復路はデラックスバスに決定【インド紀行36】

月が塔に最も接近したころは、すっかり日も落ちていた。月の光に照らされた塔が幻想的にぼうっとそこに立っている。月と塔とのツーショット。美しい 光景だった。私の写真技術の未熟さゆえ、これが思い通りの写真となっていなかったとしても、この光景は目に焼き付いて離れることはないだろうと思った。
 
3本のフィルムを費やしたところで、私はようやく立ち上がった。既に夕食の時間だ。Sさんには声かけして出てきたので大丈夫だろうが、あまり遅くなるとオーナのおばちゃんやみんなも心配するだろう。
 
三脚をたたみ、機材をバッグに詰め込み、お尻の埃を払った。そして最後にいい写真を撮らせてもらった、塔と月に合掌し、別れを告げた。
 
私は何か予感していた。このインドの旅で、もう写真を撮る機会はそう多くはないだろうことを。理由は分からない。少なくとも私がインドに来た目的は写真撮影ではなかった。事実、この後、私が持参した2台のカメラは、旅の途上、とんでもない災禍に見舞われることになる。予感が的中するのだ。インドに来ると何か勘のようなものがやはり冴えるのだろうか。
 
ホテルに戻ると、皆は既に食事を終えていた。おばちゃんは私の帰りが遅いことを心配してくれていたようで、私の顔を見るなり、ほっとした表情を浮かべていた。Sさんから私の行動は聞いていたとは思うが、申し訳ないことをしたと反省。
 
おばちゃんは私の分の食事を用意してくれた。そして私は、王宮の近くでとてもいい写真が撮れたことを報告させてもらった。お腹が空いていたこともあり、おばちゃん手作りのカレーはとてもおいしく感じた。
 
おばちゃんの話によると、夕食時、Sさんを除く5人は、帰りの手段について相談していて、あさっての朝、飛行機でレーを発つことで意見が一致したのだという。5人のチケットが確保できるのだろうかと疑問に思ったが、何らかの手立てを見出せたのかもしれない。
 
その話を聞き、私はどうすべきかを考えなければならないと思った。このままではレーでインド滞在のほとんどを過ごすようなことになってしまう。ここはとても居心地のいい場所だが、インドらしさに欠けるし、第一狭すぎる。
 
私は食事を終え、おばちゃんにお礼を言い、部屋へ戻った。
 
Sさんは、「隆さんたち、あさって帰るそうですよ、飛行機で」と私の姿を見るなりに切り出し、私も「今、おばちゃんから聞いたところです」と答えた。
 
私はSさんと帰りの算段についてしばらく話し合った。飛行機は楽だが、高く付く。まだ旅の序盤にある私とSさんはなるべく節約したいとの考えで一致 した。ということは、往きで使ったおんぼろバスかということになったが、さすがに2人のとも、それは避けましょうとまたもや意見が一致し、結局、デラック スバスを使うことにした。
 
レーを出てから、私が考えていた行程は、バスでスリナガルに戻り、列車に乗り換え、アグラへ。タージ・ハマルとのご対面を果たす。インドが世界に誇る建築物。ここはさすがに押さえておきたいと思っていた。
 
私は当面の計画が決まった安堵感と、今日一日、歩き回った疲れがどっと出たせいか、眠ろうと横になった途端に眠りに落ちてしまった。