インド紀行

マトンご飯で最後の晩餐【インド紀行37】

レー滞在、最後の一日。一同が朝食をとっていると、おばちゃんがみなの話を制し、突然こう切り出した。
 
「きょうの夕食は、最後の晩餐になるから、パーティーにしたいと思っているの。ちょっと手の込んだもの作るから、もしよかったら、女性でどなたか手伝ってくれるかしら?」
 
口々に「いいねぇ」「楽しみ」との声が挙がり、女性は3人ともおばちゃんの手伝いを喜んでしたいと申し出ていた。
 
私もいい加減、レーの街歩きは飽きていたし、一日ゆっくり家でくつろいでいようと思っていたので、できることがあればと、私も手伝いに名乗りを挙げた。
 
お昼過ぎからパーティーの準備は始まった。私が任されたのは、グリーンピースの皮むきだった。私の前に置かれたかごには山盛りのえんどう。こんなに大量のグリーンピースを使う料理は何だろうと不思議に思ったので、違う作業をしていたアポロンに聞いてみた。
 
「マトンの炊き込みご飯に使うんです。マトンご飯は私たちもめったに食べることがなくて、おもてなしの時くらいですね」
 
マトン……まだ若かった私は羊肉を食べた経験がなかった。どんな味がするんだろう。
 
やはり作業をしていた女性の間から、小声で「え~、マトン~? 匂いがきついのよね、マトンの肉は」など、ささやきあっていた。
 
材料の準備が済むとおばちゃんと女性グループはキッチンに消えた。私の役目は終わった。
 
部屋に戻り、明日の出発に備えての荷造りをしていると、おばちゃんが私を呼びに来た。
 
「準備が出来たわよ、いらっしゃい」
 
これまで1週間、お目にかかったことのない料理の数々が所狭しと並べれていた。
 
全員が着席すると、メインディッシュとなる、マトンの炊き込みご飯がそれぞれのお皿に盛られた。
 
おばちゃん、アポロンも席に着き、彼が「これからの旅の無事を祈って」とお茶で乾杯。
 
たくさんの料理に目移りしたが、やはり気になって仕方がなかったのは、マトンご飯だった。しっとりと炊けていて、見ため的にもおいしそうだった。
 
私はマトンご飯を一口、食べてみた。
 
「おいしい!」
 
思わず、口をついて出た。軟らかく炊き込まれたご飯は粘り気があり、マトンの味がよく染み込んでいる。マトンの肉自体も軟らかく、臭みはほとんど感じなかった。私がえんどう豆の皮をむいたグリーンピースもいい脇役を演じていた。
 
皆の評判も上々だった。
 
おばちゃんも満面の笑顔だった。
 
1週間のそれぞれの思い出とこれからの旅の予定などを話しながら、レー最後の夜はゆっくりと更けていった。