インド紀行

完璧な美のタージ・マハルに息を呑む【インド紀行41】

インド滞在15日目 アグラにて
 
メイン(Canon New F-1)のカメラが生き残ってくれていたことは、私にとって僥倖そのものであった。
 
ただ、水死してしまったペンタックスは、自分の物ではない。父からの借り物であった。帰国してから、平伏してひたすら謝るしかない。旅行から帰った直後では弁償は無理。次のバイトが見つかるまで待ってもらうしかない。
 
私は生き残ったNew F-1を肩にかけ、タージ・マハルを目指して歩き出した。
 
自然、私の歩みは速くなっていた。世界で最も美しいといわれるタージ・マハルは私にとって憧れの存在だった。ムガール帝国の王が亡くなった后の墓として建てた装飾品のような墓標。
 
私の心はときめいていた。最愛の人に会うような。
 
建物の間から、タージ・マハルが顔をのぞかせた。もうすぐだ。
 
土産物屋のしつこい声かけを振り切ると、突然、真正面にタージ・マハルが姿を現した。息を呑む美しさに私は打たれ、しばしその場を動くことができなかった。
 
生き残ってくれたNew-F1で撮影。南門、堂々たる正門とくぐり抜けると、水路に”逆さタージ”が写し出され、上下左右の完璧なシンメトリーを演 出していた。恐ろしいほどに究極の美を計算し尽くされた建造物だと感じた。イスラム教を奉じていた国王が建てた建物だから、モスクの形状になるのは当然な のだが、不思議とタージ・マハルはこの形でなければならない、という気にさせられる。それだけ、国王の、この建物、いや王妃に対する思いが強かったのだろ うと想像した。
 
近づいてみると、遠くからではわからなかった象嵌細工が見事に施されていた。しかし、400年の歳月は確実に風化をもたらしているようで大理石が劣化しひび割れている個所がいくつか目についた。
 
中に入れそうなので、入場料を払って建物内へ。中は暗く、ひんやりした空気が心地よい。地下の王妃の墓が安置されている部屋は驚いたことに異様に暑かった。お墓を守る上では高温多湿は避けなければならないはず。しかし、蒸すような暑さはどうしたことか。ガイドの男が、この部屋が暑くなるのは、科学では証明できない不思議な現象だと語っていた記憶がある。
 
私はその暑さにやや気分が悪くなったので、早々に抜け出し、外に出た。やはりタージ・マハルは外から眺めるに限る。大変な思い入れをもって建てた国王には悪いが、私にとっては装飾品としてのタージ・マハルであってくれればよいと感じた。
 
私はもう一度、タージから少し離れたところに移動し、腰を下ろして、タージ・マハルを眺めてみた。
 
しかし、タージ・マハルと向き合っても、特別な感興が湧いてこない。白からくる印象なのかもしれないが、冷え冷えした感が否めない。完璧な美しさを誇るだけに余計そう感じてしまうのか。
 
私はせっかくだからと近くにあるアグラ城にも行ってみようと腰をあげた。